「風の音色」

written by 星粒


わたしは海風の町で育ったから風の吹く冬もいい
オリオンがどれなのかわからないけれど
醤油を買いにふいに出た表の色が
古びた骨董屋の隅できらりと光る古いパールのように、
星が地上にもこぼれていると知った。

真面目な薬局の主人が丹念に漢方薬を量りにかける
湿った窓ガラスの向こうに彼は時折霞む。
この地上に人類がまだなにもないころ
風はこんな黒い切り絵の中をふいていたのだろうか。

想像は豊かだけれどわたしの胸には風が吹いている。
わたしはいっそのこと裸になりこの身を晒したい。
どうしても好きになれない町の風の中で
気がふれていようと風の中で目を覚まさねばならないのだ

林檎の畑の下に、星が落っこちているかもしれない
昨日まで悲嘆に暮れていた時間を夜になるとワープして
わたしは歩く

ふつう地元民でさえ歯ががちがち鳴りそうな風を掻いて
月を透き通らせるこの風がすべて空の掃除を終えたら
ほんとうの氷の時がゆっくりと上陸する



feelings of master

春の日の穏やかで柔らかく
吹かれて心地よいというわけではないのに
心と体が高ぶる風
それは実に風らしい風
風が風のまま
ありのままふいている様
透き通り
世界や自分の中に漂うもやを霧散させる
余計なもの
根を張っていないものはすべて引き剥がされる
手心など入り込まないあたりまえの厳しさを感じられる風

歪みや四角さを持つニセモノの風にはない力

倒れそうになりながらも
意志の力を頼りに顔を上げ
足をぐっと地に付け立ち向いたい

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