項目 内容

〜新たな家庭養育の流れに向けて〜
講演会・シンポジウムレポート



平成28年9月5日(月)13:00〜16:30
グランシップ 910会議室


「新たな社会養育システムとは」

講師:全国里親会 副会長 木ノ内博通 氏

(印象に残った内容)
<改正児童福祉法の大枠>

・改正児童福祉法は、審議会の議論を多く積み残した形で成立した。今後、省令の形で細かな解釈を補填していくことになる。「できたぞ、さあ走れ」ではなく「走りながら考える」法律。
・積み残しは「乳児の原則里親委託」「社会的養護の連続性」「子どもの権利条約侵害時の罰則」「児童の在宅支援(課題を抱えた家庭への働きかけ)」「一時保護のあり方」「22歳までの自立支援」など。
・社会的「養護」から社会的「養育」という枠組みでの取り組みへの移行。従来の「養護」の資源に加え、「学校、保育、地域、行政、妊産婦ケア、実親支援」などの広い分野での対応を行う、包括的な概念になる。

<改正児童福祉法の理念>

・権利の主体が「児童」と位置づけられた。これは国連子どもの権利条約からの流れ、批准してからだいぶ経った今さら感はあるが盛り込まれた。
・しかしながら、子どもの代理人になる者を規定する制度がない現状では実現していけるかには疑問符がつく。

<必要となる改革>

・絶対数の増も必要だが、新しい形の里親類型が必要、「一時保護専門」「乳児専門」などの役割を担える多様な受け皿が求められる。
・里親の名称も、里「親」という文字に拒否反応を示す実親(自分とは別の親ができるという受け止め)に配慮し、別のものを検討することが子どもの利益になるという指摘もある。
・大人本位ではない里親、「子どものため里親」という意識改革を法律レベルで刻むことが必要。 ・質の面でも、里親をボランティアという概念に留めてで専門化しないままだと、行政から権限も責任も与えられない。

<社会的養育の再構築>

・施設は「グループホーム化」「養育メインから治療メインへ」「家庭養育の支援機能」。
・乳児院は「妊産婦支援」「施設職員から職業里親へ」
・一時保護に里親の活用、校区里親が整備されれば保護=地域からの隔離という図式は無くなる。
・そもそも昔は行政の関わりが無くとも、ご近所さんや地域の大人などの助けでその子を危機からを守れていたこともあるだろう。
・里親も、もっと要保護児童対策協議会に関わるようにする。在宅児童の週末里親や家庭養育支援に参画していく。

「里親支援機関における里親家庭へのソーシャルワーク」

講師:静岡福祉大学 相原眞人 氏

(印象に残った発言)
・平成29年4月施行部分の児童福祉法では、従来「その他の援助」扱いだった「リクルート・マッチング・養育計画作成」が明文化された
・里親支援機関は、関係機関、施設との良好な関係を基盤に、一般市民への普及啓発里から里親リクルート、研修、認定登録、マッチング、委託前交流、委託後支援、子どものケア、実親との交流、家庭復帰後のアフターケアに至る業務を一環して行うことが求められる。
・そのためには、児童相談所、里親家庭(里親会)、児童福祉施設等から中立で、子どもの福祉を中心に考えつつ、里親委託に関する業務を専属的に行う組織と、ソーシャルワークの力量を備えた専門の職員が必要である。
・その際、里親を支援チームの中に意図的に取り込むとともに、里親による里親支援をコーディネートすることが重要になる。


シンポジウム「里親支援機関の現状と今後のあり方について」

(印象に残った発言)
・求められるのは「リクルート・マッチング・ネットワーク」と考える。
・現状、高い委託率を支えているのはベテラン里親によるところも多い、いかに次の世代のいい里親を獲得していくかが課題。
・普及啓発のゴール(最終目標)は里親登録。広範囲に一斉にやっても労力に見合う成果は出ない、先進国でも一番効果があるとされているのは「口コミ」、養育里親に「しんどいけど、やりがいあるよ」という体験を重ねてもらうことが効率的なリクルートになる。
・啓発は年1回程度では記憶に残らない、短期間に複数回触れた人からの反応が多かった。地域をしぼったうえで、多くの場所・時間・媒体などをとらえて、潜在的里親希望者がでひっかかる確率を高めることが効果的。
・リクルートの次はトレーニング。この2つはともに、受託後の支援につながらないと意味がない。素晴らしい研修でなく、役立つ研修が必要。
・いろんな生き方の中で、養育里親という生き方に興味を持ってもらい、十人十色な思いと強みを活かして社会的養育のチームに参加してもらうことがゴール。

・次に来るマッチングは、リクルート後の面談や研修を通してもアセスメントが行われる。社会的養護の役割や子どものための制度という説明をすることで、当事者が何を求めていたのかに気づいてもらい、登録ではなく、別のボランティアや里親会の賛助会員に進んだ例もある。
・夫婦での話し合い、面談の振り返り、親族への説明、説得などをきちんと乗り越えられるようなら大丈夫。委託に不安を抱く場合は、先輩里親からの「案ずるより産むが易し(実際には産まないんだけど、里親だから)」的なポジティブな後押しが効果的
・具体的な気持ちの上げ方としては、乳児院での抱っこボランティア、施設のお散歩ボランティア、里親の養育支援事業などを通じ「これならやれるかな」という方向へ持っていく。
・何らかの障害を持つ子どもについて、対応は後になるほど難しいし、里親は最初はてんてこまいなので障害の話をされても耳に残らないこともある、委託後の丁寧なフォローが求められる。
・マッチングは1回の場面で終了するのでなく、一連の流れの中で少しずつアセスメントをしていくことで不調を防ぐことができる。
・マッチング時に見えていなかった部分に関して、予想外のことが起きるのは当たり前、そのときにチームで養育するという意識ができていれば出しやすいところにSOSを出せる。
・児童相談所は児童のことだけをよく観察しがちだが、里親のことも児童相談所がしっかり理解しないとうまくいかない。

・最後にネットワークの話。何より「子ども中心に活動してます!」というメッセージを発することでつながれる相手は多い。
・施設職員は、他のどの同じ職種の専門家よりも里親制度への理解のある相手と思えば連携しない手はない。周産期の研修では助産師に頼むことも考えたが、乳児院の職員に頼んでよかったと感じている。
・社会的養育のつながりのためにも施設との関係は里親にとって重要。また、全ての里親が学校や医療機関に理解を持って受け止められることはないのが当然だから、施設期間の外部とのつながりも大事にしたい。
・心がけることは相手を批判しないこと、子どものためになるならいくらでも議論していいけど。


(まとめ)
「ゴールは自分の意識が決める、目の前のできることをやっていても、目指すべきゴールにはたどり着けない。だから、やらなくちゃならないことをゴールにしないといけない。」
「日本で里親制度は広がらないよ、なんて言ってたらいつまでたってもも広がらない。日本全体でチームになって、ちょっとずつ、やるべきことをやっていけば、時間の経過とともに広がっていく!」

※上記内容は講演やシンポジウムの内容を管理人が聞き、印象に残った部分を再構成したものです。「発言」と表記していますが、管理人が受け止めた心情を加味した表現であり、発言者の言葉どおりの記録ではありません。

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