項目 内容

ふじ虹の会フォスターセッション2019
〜小さな声に耳を傾け、弱き者に力を与える〜
参加レポート



令和元年11月17日(日)
13:00〜17:30
富士宮総合福祉会館
 安藤記念ホール

イベントフライヤー

1:開会挨拶

(印象に残った発言)
・今回で第8回目となる、フォスターセッションと謳っているが、社会的養護分野以外の市民が継続して参加してくれていることが嬉しい。
・いつもは里親月間の10月に開催しているが、今回は近年の虐待事件の多さ、深刻さに鑑みて児童虐待防止月間の11月に行うことにした。
・虐待の事件性や悲惨さを一方的に訴えるのではなく、ネガティブなだけのとらえ方をするのではなく、ポジティブに行動することを掲げたい。虐待に対して社会は、個人は何ができるのか。虐待予防について考えるセッションです。
・今回も託児ではなく会場内のキッズスペースを設置、親と離れられない子どもの状態でも会場の空気を感じたり話を聞けるのでこの形がベストです。子どもの大きな声や走り回る音を聞くと「ああ、自分はこの子たちのために活動してるんだったよね」と思い出せる。寛容な大人になるトレーニングも兼ねてます。そういう気持ちで聴けば、案外ちゃんと発表者の話は聴こえるものです。


2:行政説明「富士市・富士宮市の現状」

(印象に残った発言)
・平成30年度末の統計でみると、全国では虐待相談件数は159,850件(29年度:133,778件)と過去最高を更新中、一方県内では2,911件(29年度:2,368件)とこちらも過去最高。富士児童相談所(略称:児相)管内では419件(29年度:327件)。
・児相全国共通ダイヤル189の開設、死亡事件についてのマスコミ報道による危機意識の向上、警察の面前DV連絡の徹底などが要因として考えられる。なお、189の通話料は12月から無料になる。
・虐待通告があってから48時間以内に子どもの安否確認を行っている。児相が行くこともあるし、関係機関が確認することもある。そこで親子分離が必要と判断した場合、施設や里親に受け入れを打診して一時保護を行う。
・静岡県の登録里親数は485家庭、それに対して委託中の家庭数は148。県全体の里親委託率(社会的養護が必要な児童のうち里親家庭で生活している児童数)は29.5%。
・全国平均は19.7%なので高い方なのだが、国は「6歳未満は75%、それ以上の年齢では50%」というハードルの高い数値目標を掲げており、県・政令市もそれを受けて実情を踏まえた計画を作成中。
・里親にもっと委託すべきとの方針はわかるが、数字だけを追うと里子の不調(養育がうまくいかない状態)などが発生することもある、十分な調整や支援体制が整わない状態で児童を里親に委託することはリスクを伴う。
・里親登録数の分母を大きくすることに加え、様々な課題や特性(発達障害、被虐待経験など)を持つ児童を受け入れられる里親の育成も必要。
・目黒区での女児虐待事件では児童相談所間の連携のまずさが指摘された。県内では担当者間の引継ぎを丁寧にやっている。


3:里親普及啓発報告

(印象に残った発言)
・高校卒業後に進学、就職する際の支援が必要な場合の措置延長(18歳を超えても里親家庭で養育を受けられる)の体制が整ってきた。従来は学費の問題で断念せざるを得なかった児童も多くいたが、学費の支援も整ってきた。
・富士市と富士宮市にいる里親は57家庭。しかしながら未委託(養育していない)の里親が半数以上。里親宅での養育に適する子どもばかりではないという事情もある。
・相談会にみえる方の7割くらいは養子縁組を希望。強いつながりを子どもと結んでもらえるという点では好ましい点でもある。ショートルフラン(短期)での受け入れでも、子どもにとって何かが変わるきっかけになることがある。1家庭でも多くお願いしたい。
・里親支援機関としていろいろな里親支援ことをしているが、このフォスターセッションもその1つ、一般市民が里親家庭を知り、関わるきっかけになっている。
・今年の6月に特別養子縁組に関わる改正法が成立した。「6歳になるまで」とされていた養子となる子どもの年齢が「15歳になるまで」に引き上げられたり、家庭裁判所における取り扱いがより子どもの安定的な養育につながるものになった。興味を持たれている里親もいる。実際の縁組までは長期戦となることや、特有の問題や不安へのサポート、実親への対応、法的な処理などの各場面で、児童相談所・里親支援機関・市役所が連携して特別養子縁組を希望する里親を支援していくことになる。


4:ユースと政治家のパネルトーク「施設経験者の語りと政治の使命」

(印象に残った発言)
・フォスターユース(社会的養護の環境で生活してきた若者)や施設や里親家庭で暮らしている子どもにはその環境ゆえの社会生活の困難さがある。よりよい環境で生きていけるようになるにはどうすればいいのか、社会がどうなればいいのか。市民の代表である市議会議員に質問するプログラム。回答者は中村憲一富士宮市議会議員と小池義治富士市議会議員。

Q1.児童虐待に社会はどう対応するのか?
・法律で守る、自治体内弁護士の整備をして法的対応能力を高める。
・市の組織である要保護児童対策地域協議会の体制強化、予算措置拡充。国や県にはそれぞれ体制強化の指針を求める。

Q2.虐待の発見は「外傷」よりも「親子の関係」を端緒にしてほしい。コミュニティの中でそれにどう取り組んでいるか?
・勇気あるおせっかいと教育との連携で発見、地域が変化している状況(核家族化等)ではなかなか難しいが。
・親子の関係は外傷よりも端緒となりにくい(発見が難しい)、コミュニティにそこまで求めるのは困難、責任を負っている行政が行う。

Q3.社会的養護の中で「評価の高い子(いわゆる「いい子」)」はケアやキュアの機会が十分でないことが多い、自立した後のトラウマ等による苦しさへの対応方法と、子ども時代のケアとキュアの機会保障の実現の方策は?
・頼る力をつけることが課題を解決していく力になる、そのサポートを子ども時代から行う。
・社会的養護環境の子どもは「頼る」ことのできる相談相手との人間関係の構築の段階から困難さを抱えている。頼るのが苦手、断られることが苦手なので頼れない。医療的なリソースをユースが知らない、情報にアクセスできない。経済的にギリギリの生活のユースは医療をおろそかにしがち、体と心の保健知識をもっと学ぶ機会があるといい。表面には出ない「いい子」の心の底まで目を向けてほしい、いい子の状態を基本に処遇を決めないでほしい。

Q4.あちこちで要求される「保証人」について、確保が難しいのがユースの実情。いろいろな施策が行われているのもわかるが、そもそも「保証人がいらない社会」にはならないのでしょうか?
・人数や条件を少しずつ緩和していく対策が必要。
・求める側にとって必要だから存在している制度。住宅の場合、信用がない人と契約するリスクを貸す側に押し付けてはならない。

Q5.生活する場所を児相が決めるとき、人生を大きく左右する事柄なので子どもの意見も聴いてほしい。
・子どもの意見”も”聴く。ただし、子どもの意見だけでは決められない、それは行政の責任として決める。
・子どもの意見を尊重してほしい、なぜそうなるのか説明してほしい。蚊帳の外に置かれたくない。
・子どもの権利条約、条例という形で保障する流れになってきている。
・年長のユースの話だと、子どもの権利という概念も言葉も知らなかったので何も言うことができなかったという。意見表明をしていくことはユースにとって権利を得るために必要な行動。

Q6社会的養護下にある子どもへの認識は、何をすることがベストか、何が問題ととらえているか?
・他人事でなく、自分ごととして考える。次の世代へ連鎖させない、そのためには教育、幸せを感じる心を育み、一歩ずつ歩むことを支えたい。
・政治家として問題解決の方法をを政策レベルまで練り上げる必要がある。ユースも社会を具体的に動かすための方法を学ぶといい。
・制度が少しずつ整備されているのはいいこと、だけど今まで恩恵を受けられなった世代へのフォローもあるといい


5:シンポジウム「施設ってどんなところ?〜昔と今、そしてこれから〜」

(印象に残った発言)
・親のいない子がほとんどいないので、子ども生活の場で安定し、家庭や子どもの抱える課題を解決して家に戻るまでを期間限定で行う場所。保育園や子ども園と同じ種類ととらえてもらえれば。
・「あたりまえの生活」に子どもと地域の関わりは欠かせない。施設の子も地域の子として地域のお祭りなどのときに施設の外へ出たり、地域の子が施設へ遊びに来たりという関係がある。
・施設の職員が専門性に磨きをかけることで子どもの問題への対処力が向上している。施設に来た理由の主なものが虐待ではなくても、その後の調査で虐待があったという場合も多い(7割ほどは何らかの被虐待の経験がある)。
・家庭で発生する子どもの課題は施設でも起きる。子どもの養育に携わる人が感じることも家庭と施設に大きな違いはない。
・社会的養護が必要になってしまう環境を作らないために、児童家庭支援センター・小規模保育所などいろいろな形態と目的の福祉サービス・施設も展開している。
・子どもへの関わりは格闘の日々とも言える。嵐のような日々を過ごした子どもが、5年10年経って職員の言葉や関わりを意味あるものだったと感じてくれたらいいなと思う。


6:トークセッション「児童虐待を防げる社会であるために」

(印象に残った発言)
・会社を経営するにあたり、社員がこの会社で働いてくれるのはなぜかを常に考え、社員の暮らしや思いを大切にする。仕事の基礎にある理念を忘れず、社会的な存在意義を生み出し、次の世代に継承していくていく。
・その人が大切にしたいものを大切にできるために会社は動く。働きやすさのために制度の整備と社員へのケアを大事にしている。時代が変われば会社のやり方が変わるのは当たり前。「働かなくちゃ…」ではなく「働きたい!」と思って働いている人であってほしい。
・企業活動と福祉活動に垣根はあるか?「その人らしく幸せに暮らすこと」を共通項にすれば、2つの活動の間に線を引くことは意味のないことでは?
・社長の用事に遅刻してでも社員の個人的な相談を優先する。社長が何のために会社にいるのかに立ち返れば社員への対応をなおざりにしていいわけがない。
・家庭と会社(社会)を分けてしまっているから、家庭が外部のストレスを暴発させる場(対象)になってしまっているという不幸。家庭外のストレスや問題を解決するための経営施策が機能すれば、生活と仕事の両方で状況が改善する。社会と家庭は、社会と子どもの幸せ、虐待予防はつながっている!
・虐待を防げる社会であるために、あなたはどうする?どう関わる?会社で過ごす仕事の時間は、自分の誇りや生きがいの実現に大きなウェイトを占める。利己的ではなく利他的な目標を共有できる存在、個人同士の関係や集団でのつながりを作る。
・若年層が早期離職する原因で最大のものは「人間関係」。中高生に話をするときには「学区の中、学年の中、クラス内どこでも人間関係のうまくいかないことはあるでしょ、会社や社会ならそりゃもうものすごくあるのは当たり前」と言う。人と人が一緒に何かをすればもめないわけがないのだから、対処のために相互理解が促進されるような仕組みは会社が作る。会社内での関係がよければその話を家でもするようになる(悪い環境なら何も話さない、出てもせいぜい悪口や愚痴レベル)。会社は家庭を平和にする役割がある。
・「頼れない」という状態は、相手を簡単に信用しない、信頼して自分の未来をゆだねない防衛本能による面でもある。同じ場所で同じ時間を過ごすことが良い関係を作る方向へ向けば、少しづつ信用できるようになり、その積み重ねで「頼れる」関係ができるのではないか。
・社会的養護を離れた後、自身をどのコミュニティに置くのかは自分である程度はコントロールできる。心地よい場所にいられないことは大きなストレス、自分のいる場所を快適にしていく努力は自らを助ける。虐待を包囲する社会の一人として健やかであれ!

7:里親体験談

(印象に残った発言)
・自身はシングル。現在、4歳から委託の始まった7歳の女児と2人暮らし。里父の母の積極的なフォローがある。
・児童虐待の報道に接し、社会的養護への関心を持つ。福祉系大学で資格を取得した後、当初の思いとは少し異なる障害児入所施設の保育士として勤務を開始した。そこが大舎制の施設であったことから、子どもへの個別処遇の至らなさに葛藤しつつ苦悩して3年を過ごす。
・職場の配置換えによりケースワーカーとして勤務する中で坂間会長との出会いがあり大きな影響を受け、家族との相談の後に里親登録。里親をすることの大変さはいくつも浮かんだが、やらなかった後悔をしたくないとの思いで踏み出した。
・登録時には養育里親として社会的養護の必要な児童の受け皿となり、社会資源として機能したいという展望があった。施設で葛藤していた反動からか、個別処遇ができることに意気込みが先行した感もあり、いろいろと失敗したことや躓いたこともあったが、その日々を糧にして今に至る。
・目指すところは受託児童の家族再統合、復帰後も適切な子どもと家庭へのアフターフォローなど、この子にとって必要な関わりを続けたい。
・里親として生活する中で成長した、里子目線でものごとを見たり感じたりすることで感性が豊かになった。多くのことを里子に与えていこうと考えていたよりも逆に与えられていると感じている。
・家族って何だろう。血縁も法的な親子関係もないけれど、同じ時間を過ごしたのなら家族だと思う。
・里親としての役割を果たすのにピア活動はとても助けられる。活動を継続し盛り上げていきたい。家族・友人・仕事場の協力もあってこその里親。


※上記内容はセッションの内容を管理人が聞き、印象に残った部分を再構成したものです。「発言」と表記していますが、管理人が受け止めた心情を加味した表現であり、発言者の言葉どおりの記録ではありません。

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