携帯電話を止めてやる
それゆえにこんなものを作り上げることができた。
史上最悪のコンピュータウィルス。
世に蔓延しているはた迷惑な雑音発生源の携帯電話に感染し、その機能を完全に停止させ、またたくまに次の標的へと感染を繰り返す。
そして現在の技術では駆除どころか検出することすら不可能。
携帯電話の使用マナーなんてものを人間に守らせることなど不可能。
使用禁止の注意があってもおかまいなし、それどころか注意したら逆ギレするやつのなんと多いことか。
急用とかぬかすやつらがしている会話もメールも写真もどこが急用なのか1時間説明されても納得できるわけのない内容だ。
頭にきたので必要もないのに人工心臓とペースメーカーを埋めこんで見せ付けて「殺す気か!殺してみるか!」とやってやろう
かと思ったが実際に殺されてはつまらんのでやめた。
そこでわしは決意した。
「使わせないようにするのでは駄目じゃ、使えないようにしなくてはならん」
20世紀の終わりから伸び続けた携帯電話の普及率はほぼ100%となった。
同時に固定電話はほぼ死滅した。非常用ということで少しは残っていたものももうほとんどなくなっとる。
20XX年現在ではもはや携帯電話となどとは呼べないくらいの余計な機能がごちゃごちゃとついとる。
外見・物理的な機能進化はほぼ終わったので携帯電話自体の新機種は出なくなり、中身のプログラムの更新だけが続いとるのでメーカーはデータ通信によるバージョンアップ版
の提供で稼いどるのが現状だ。
そんな状況にうかれとる奴等にはこのウィルスの恐ろしさがよくわかるじゃろう。
膨張した形態電話網が逆に仇となり、感染経路は無数に存在する。
限りなく続くバージョンアップとくだらないやりとりのためにいちいちどれが必要かなどと考えずにメールとして受け取るデータの数々。
そこにこのウィルスを放り込めばまたたくまに世界のほとんどの携帯電話は使用不能になる。
完璧じゃ。
理由もわからず役立たずになったガラクタを必死にいじくるやつらの顔が楽しみじゃわい。
わしは綿密に練った手段でウィルスをばらまき安心して眠りについた。
そして朝が来た。
記念すべき朝にふさわしい気持ちよい目覚めじゃ。ニュースではどこも携帯電話の不通を大々的に取り上げとる。
全世界がパニックに陥っている、いい気味じゃわい。
さて、久々に携帯電話の雑音の消えた静かな町を歩くとするかな。と、家を出た瞬間、わしの目に信じられない光景がとびこんできた。
携帯電話で話しておるやつがいるではないか!
なぜじゃ?
ニュースでも全世界で(わしのウィルスによって)不通になったと言っていたではないか?
なぜこの時代遅れのロックンローラーのような金髪の若僧は携帯電話で話しておるのじゃ?
「おーい、ここ、ここ」
すると向こうから似たようないでたちの赤髪の若僧が携帯電話で話しながら歩いてきた、会話の内容から察するにこの金髪と話しているようだ。見えてるんなら普通に話せばよかろうに、無駄なことをしおって!
そこでわしはあることに気付いた。
この2人の若僧が持っている携帯電話には…何か普通のとは少し違うという印象を受けたのだ。
「!!!」
(まさか、そんなことが…)
わしは普段なら絶対に声などかけないその若僧どもにためらいつつも声をかけた。
「ちょっとすまんが尋ねたい」
「何だよジーサン?」
「その携帯電話…妙に古いように思えるのじゃが?間違いないかの」
「あぁん?」
「それは…ひょとして20世紀ごろ作られたやつじゃないのか?」
向こうから歩いて来ていた若僧が話しに入ってきた。
「おーう、わかるかぁジーサン、ダテに年くってないね。そのとおりさぁこいつは20世紀モデルだぜぃ」
頭の悪そうな高い声が悪魔の戯言のようにわしの耳に響いた。
「俺らは時代に流されたくねーんでな、俺たちの間じゃ古いケータイを使うのが流行りなのさ!」
「そうそう、こいつはメールもできねぇからちょいと不便だけどよぉ、そのおかげで迷惑な広告とかイタズラメールも 入んねぇのさ、クールだろ、ある意味最強だぜ!」
「シンプル・イズ・ベストってな、ひゃひゃひゃひゃ!」
「…そうか」
それだけ聞けば十分だった、わしはくるりと踵を返てふらふらと自宅に戻り、ウィルスを発信したコンピュータの前に座った。
時代遅れすぎる携帯電話にわしは負けたのだ。
しかし、思えば携帯電話の進化と普及にいらついていたわしが、その技術の進歩にのっかって復讐を果たそうとしていたんじゃな…わし自身が時代遅れのじじいのくせにな…皮肉なものじゃ。
わしはあらかじめ用意しておいたウィルス消滅プログラムをウィルスをばらまいたのと同じ経路でばらまいた。しばらくすれば最新の携帯電話の通話も回復するじゃろう。そして雑音が再び溢れる世の中にもどる…
それでいいのじゃ。
機械にはもうたよらん。
わしは再びこの口で「やめろといっておろうがぁぁ!!!迷惑じゃぁぁぁぁ!!!!!!」と叫ぶとしよう。
それが、人間骨董品のわしに似合いのやり方じゃろうからな。
なんだか元気がわいてきたぞい!血圧が上がろうとかまうものか!
あ、でも万が一のときのために人工心臓とペースメーカーの用意はしておくかのぅ、やめろっちゅう言葉に説得力もでて一石二鳥じゃしな、ふぉっふぉっふぉっ。
終わり