ROOM201

                 刹那のみを切り取れば                  朝焼けも夕焼けもその姿は似ていて                  闇が濃さを増すのか                  闇が薄まってゆくのか                  私に知る術はない                                    闇の濃淡にかかわらず                  ただ行くこと                  どちらの世界であっても                  歩むのは私なのだから                                    どこまで来たのか                  どこまで行くのか                  考えず                  ただ行くだけ 長く続く雨はうっとうしいと感じる でもそれは雨が降らない状態を快適と感じていることの裏返し 雨の日もあれば晴れの日もある それが自然のままの姿 それを忘れた人間だけが 梅雨を悪者にしているのだ ずぶぬれの合羽を脱ぎ 乾いたタオルに顔をうずめる瞬間は たまらなくほっとするものだ 湯船につかり体の表面の温度が次第に回復していく感覚も 自分の安心できる世界に戻れたことを感じる 幸せな瞬間だ ただ感じること 何も評価を入れずに感じること それだけで日常は輝きをみせるのだ

世界は何も意図していない そのままの姿でそこにある けれどぼくはときどき それを受け取るときに よけいなものを足してしまう 経験とか知識とか好みとか 必ずしも正しくない見方を 正しいものと疑わないから そのまま を 見られない そのままをみつめることは 怖いけど そのままをみつめられたら そんな気持ち消えてしまう そんなもの持たなくてもいいってことが そのまま わかるから 春なのに と 思うとき 僕はいつの春を思っているのだろう 春という言葉があること 春という季節があること それを知る前に 僕は何を感じ取っていたのだろう 先人が築きあげてくれた 意味 を媒介にしつつも 自分の築き上げた 意味 も愛おしい そんな 今日 です 「痛みを抱くこと」 筋肉痛で思い出す昨日の無茶 年とともに痛みが先延ばしにされるのは 心も同じかな 青ざめた顔で心を震わせ 痛みは永久に癒えないものと よどんだ闇を抱えていたあの日 消えない痛みを心のひだに織り込み 今日の自分を明日へと つなげるすべを知らないで 今 僕は  痛みを感じぬわけじゃない 痛みを忘れるわけじゃない 痛みでしか知りえないことを知るだけさ 「小さな栗のイガ」 ずっと心を覆ってた しなくちゃいけないことは 空を見上げたら見えなくなった 頭の後ろののまっすぐ下 かかととかかとの隙間にぽつんと落ちている 小さい小さい栗のイガ 傍らのクスノキ コナラの林 かすんで見える山の葉たち どれよりも小さい自分 さらに小さな栗のイガ 深い呼吸で飲み込めば 墨絵のようにすっと薄まる 深い呼吸で吐き出せば 陽にあてられとけてゆく 季節がめぐれば 枯葉とともに風に舞い 誰も見つけることはできない そんな些細な栗のイガ 小さな君が 小さな誰かに 見上げられるくらいに育つころ イガの中身が 君の力になっているよ 「草の背丈で歩いていこう」                 流れ流れてゆくものたち 広きを求めれば 深きを失う 早さを求めれば 小さな道には迷わぬけれど いずれ大きな道に迷う だから 大丈夫 道端の草の姿を覚えてゆこう 豊かさを 見つめよう 「冬のそらみみ」 ぬすみぎき あるいは 聞いてしまった 聞けないはずの言葉 私の方に向けられているけど 私にねらいのつけられていないことば 大人の試し斬りと 子どもに持たせた真剣の違い 一直線に飛んできた小石と 山の上から両手で放り投げられた石の違い 当たる理由がないのだから その分容赦がない 突き抜くこうとは思わない分 突き抜けきることば 当たってないふりをすればいい それだけだよ だって そんな言葉 だれも聞けるはずはないんだから そう きっと 少し冷たい 冬のそらみみだよ 「夏に気押されないで」 何も見つけられない自分に降り注ぐ 夏の午後の日差し 物言わぬ緑葉の姿を借り ざわめきたてるセミの声 急かされる気がしても走り出せないのは 言い訳の準備に忙しいから 逃げ込むところのない世界に居たい 木陰は人のために作られたのではない 木々が自らの命を 日差しから守るために作ったもの ほんのひととき 木々の情けにて 居させてもらえるだけのこと そんな世界で 何かを見据え走り出したい 焦りに耐え切れず 自分の道から逃げ出すのではなく 「残光よりの使者」 一瞬だけの旋律 保存されないことば 流れに逆らわずにいることの 軽やかなでなくとも 気負う心から遊離し 意味を届けようとしない姿に感じる潔さ 失望しないメッセンジャー 疲れた体に効くもの 少しぬるい白湯 適度な痺れ 自らは輝けぬゆえに 闇に寄り添える 残光よりの使者 何も残さず 月の輪郭線へと消えてゆく 「ひとすくいの未来」 私の両のてのひらにたたえられた未来 この小さな泉から 未来は息づいてゆく 泉にうつる世界なら 私は愛せる気がする 柔らかさをたたえた未来 てのひらをひらけば 私のまわりを漂い 未来をつくってゆく これは世界に切り込む 私の武器だ 時には 誰かを守る翼に変えて とこまでもともにゆこう 「冬の幸せ」 今この腕の中にある 幸せはリアルだ 冬の日差しには 熱さも 写真になりそうなセピア色も 眠ってしまいそうな陽気もない 冬の空気は ふるわせるけれど ごまかさない 嘘をつかない 直接 細い無数の針がささるような温かさをくれる 肌にも 心にも 冬の幸せはリアルだ 「捨てた感覚」 冬の風に 不意に感じた懐かしさ さむいさむいとはしゃいだあのころ 失ったのではなく 捨ててきた感覚 北風は感じるものから避けるものへ どろんこは楽しいものから汚いものへ 変わったのではなく 変えたのだ 自分が たくさんの感じる力 閉ざしてゆく その先に 何が残るだろう 「明かりを消せばみえてくるもの」 夜のとばりが光をとざすと 僕が僕にかえってくる 部屋の明かりを月明かりに変えると 僕の真ん中が輝きだす 僕の光は僕を照らす それは強い光でなくても 僕の中の確かなものをみつけさせる 世界にあふれる光に照らされ 見えなくなっていたものを そして浮かぶ世界との境目 そこからみつめていけば 見ていたつもりの世界が みえてくる

「NO NAME」
流れるもの 水?それは違う それはヒトがつけし名 支配 所有 優越感 傲慢 ただ流れるもの 流れるということさえ ヒトの世界の矮小な記号 大いなる自然 ヒトの知らぬ営み 浮かんでは消える水泡 そこに生まれた そこに生まれた ただ そこに生まれた ここにいる理由 求めるのは ヒトだけ 「オーロラの季節」
氷の壁 逞しき命の故郷 見られるという概念さえ知らない風景 傷つけることで歩みをたしかめる 安らぎなく目覚めて 見上げれば 眠ることを知らぬ空 光の帯の雫にすら とどかぬこの手 「箱庭の星」
虫の動かぬ森 けものの吠えぬ森 木々に阻まれることのない森 森を切り開き 林を倒し 木を伐り 古よりの民に変わり居を構えた者は 見晴らしというもののために葬り去った生命を 血のかよわぬ 切り取られた大地で ままごとに 育てている 巨大な箱庭 やがて 色褪せて 朽ち果てる 壊れた玩具とともに 「四角い太陽」
四角い太陽が沈む 科学を知らぬ民は 全ての営みを止め 自らの歴史を省みる 科学の民は 自然に名前を付ける民は 立ち止まれない 永久に 「全てを知る蟻」
コンクリートの壁にもたれて雨宿り 二度と訪れぬであろうという予感を 持て余す冷たさに感じ 足元にあいた三角錐の穴をずり落ちてゆく 分相応の場所へと追いやられ 見上げれば 紫の空を従えた稲光 うちつける雹に 己の小さきを知り 地の底にいるがゆえの 世界の裏側からの俯瞰を得る 「かげ」
心を塗りつぶし すべてを覆い隠す いかなる光の下でもそれは黒い いつわりの色をはがされる単色の世界 逃れたつもりで逃げ場をなくす 体の輪郭だけを他意なくなぞり 何に臆することなく 何よりも雄弁に 暴き出す