6.
「えっと…何をするんですか……?」
急に立ち上がり、「ついてこい」と言った俺が立ち止まったのを確認するとガキは不安そうに尋ねてきた。
「とりあえず、本当に役に立つかテストだ」
「テスト…ですか?」
背後からかすかに喉が鳴る音が聞こえた。
俺は緊張している様子のガキにゆっくりと向き直った。
「そうだ、よし、これを持って」
「ん…お皿…ですね」
ガキは俺が渡した2枚の皿を大事そうに抱えた。
「これを洗って食器棚に入れてくれ、そーすりゃ少なくとも洗い物は任せれるってわかるだろ?」
「あ、はい!わかりましたっ!」
皿を持つ手に力を込め、ガキがやる気たっぷりに返事をした
「ん、んじゃ頼むな」
俺の方には少々不安があったがテストは始まった。
(よーし、がんばるそ!)
私はお皿を落とさないようにしっかり抱えて
(えーっと、まずは流し台を探さないと…)
そう思いつつそろそろと歩き出したら…
ぽすっ
といきなり何かにぶつかってしまった。
(何だろう…?やわらかいから壁じゃないみたいだし、カザカザいってるけど)
「どうした?やめるか?」
それはツトムさんだった。
私は意気込みの空回りに少し恥ずかしくなった。
でもあきれているような様子ではなく、やさしい感じで言ってくれたツトムさんに勇気づけられて
「…いえ、やめません!」
と応え、くるりと方向転換して再び歩き出した。
いっそう注意深く壁をつたって…
と、何かにつまづいた。
「あれ…、何だこれ?」
「そりゃ、ほうきだよ…」
「あ、なるほど」
ほうきをよけてすり足で進むとまた足に何かが当たった。
そのときカタっという木と木がぶつかる音が
右手だけでお皿を支え、左手で探ってみるとちょっとざらざらした丸いものがあるのがわかった。
(ん、これもお皿?ということは、ここが棚かな?)
「おっと、その前にキッチンで洗ってくれよ」
「あ、すいません」
(よし、ちゃんとこの場所覚えとこうっ!)
また壁沿いに進む。
「あれ、ここじゃないかな」
このへんだった気がするんだけど…と思いつつ角を折れてもう少し先へ進むとまたツトムさんの声が
「おっと、そっちは玄関だろ」
「あ、はい」
そう言われれば風が感じられる。ツトムさんがお料理をしてたのは入り口からまっすぐのところだったから、やっぱりあのへんでいいんだよね…
少し戻って左手で探ってみる。
くぼみがあって水の音がする
「あ、ここだ」
「よし、そんじゃ洗って食器棚に入れてくれ」
「あ、はーい」
お皿を落とさないように注意して水で洗う
1枚目終わり、…2枚目も終わった!
「これで…よしっと」
(半分は終わった)ということを確認するように私はそのことを声に出した。
(あとはさっきの所に入れれば…)
もうゴールはすぐそこだ、と思えた。
しかし…
「あーっと、ここじゃないや」
なぜか…
「えっと、ここじゃなかったよね…」
あげくに…
「え、えっと?」
「い、いや、それは全然関係ない……」
「えっ、す、すいません」
(……どうしよう、さっきの場所全然覚えてないや…)
でも焦っても仕方がない
(もう1回順繰りに探ってみよう)
私は今来た道のりを逆にたどって
(………!)
ようやくさっきの棚にたどりついた。
そしてお皿を1枚入れた。
するとツトムさんが
「よし、もう1枚を隣の棚に入れて終わりだ」
と言った。
確かにもうこの棚にはお皿がいっぱいで置ける所がない。
次は隣の棚を探さなくちゃならないんだ。
「よーし、頑張るぞ!」
と、はりきって言ったところでふとさっきのツトムさんの声が頭をよぎった。
(あれ…?確か隣…の棚?って…)
左手をすーっと横に動かすと、なるほど同じような棚がある。
(……はりきったの、意味なかったかも…)
でも、おかげであとはこれを入れるだけ。
慎重に、慎重に…と心でつぶやいてそっと棚にお皿を差し込んでいく。
「よいしょ……やった、終わりっ!」
私は食器洗いと片付けを見事(?)やりとげた。
「終わりましたよっ!?」
嬉しそうにガキがこっちによってくる。
「ふぅ、…見ててひやひやしたぞ……」
「これで約束通りいいんですよねっ!?」
「……仕方ないな」
「ほんとですかっ!?」
「……ああ」
「やったぁ!!」
両手を上げて派手に喜ぶ。
と、バランスを崩してガキが少しよろけた。あわてて支える俺。
「っと、おいおい、大丈夫か?」
「あ、あはは…、すいません…」
こうして俺とガキのおかしな同居が始まることになった。