放課後の遺言状
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午後4時を過ぎ、がらんとした貸し出しカウンターに立ち思う。
意味のないもの、それは図書委員会の昼休み・放課後当番表。
数年来の伝統らしいが出席確認もなく、来なくても誰も咎めない寛容な姿勢が災いし、決められた通りにメンバーがそろうことなど委員の任期の替わった第一週ぐらいしかないという状況を生んでいる。6人制の当番なのだが1人くればいい方で2人来ることは奇跡とまでいわれている。
では本の貸し出しやもろもろの委員会の雑務はどのように行われているのかというと、これがまたうまくしたもので都合よく起きる奇跡によって成り立っているらしい。
僕のように物好きというか「図書館好き」という性質を持つ者が委員の中に毎年数名おり、当番でもないのになんとなくたむろしているついでにその仕事をやっているという。その奇跡は今年も起こり、自分と数名の後輩がこのカウンターの住人となっている。
しかし例外となる日もある。
それはきっちり当番がそろうという前代未聞の奇跡ではなく、「数人がたむろす」という点においての例外で、一人だけの当番になることがあるのだ。
後輩たちはそれぞれに部活に所属しており、その活動日には当然図書館には来ない。
部活が早めに終わればそれから来るということもあるにはあるが、図書館の閉館の方が早いことも多いので後輩たちの部活が重なると僕一人ということが生じるのだ。
ちなみに僕も一応は所属する部はあるのだが、活動が事実上行われないようになってしまって「だべり部」と化しているのでいても仕方がないと判断し、ここにいるのだ。逃避といえるかもしれないが図書館の役には立っているのだから見逃していただきたいなどと勝手な理由づけをして。
別に一人だからといって大変なわけではない。
貸し出し希望者が殺到することもなく、新規に入った本の整理をするくらいの作業しか普段はないので不満も特にないしうまく流れているのだからやる気も意欲もない人にことさら出席を訴えることもないだろうという状況だ。6人もいたらこの狭いカウンターの中に入りきらないし。
というわけで今日がその例外の日。閉館時間も近づいた、図書館の鍵を託された僕が閉館を決意
すれば本日の「営業」は終了となる。
相変わらず人の少ない、というかほとんどいない館内。
静寂が心地よい限りであるが寂しくもある。
ひょっとしたら誰もいないのではないだろうか?
僕がここにいる意味はあるのだろうか?
そんな存在意義不安を抱えつつ当番日誌を書き終えて「一応」と
いう感じで見回りに出かける。
静かに居眠りしている人でもいたら閉じ込めてしまうことになる。
それは切ないだろうし、あとあと問題にもなるだろうから。
雑誌棚付近、いない。
文庫・寄贈図書棚付近、いない。
他にカウンター席から見えないのは辞書、百科事典棚奥の小さな机の所だけ。
あそこに机があるのを知っている生徒は少ないから、まず誰もいないだろうけど。
でも委員の中では穴場として人気がある席だ
窓があってグランドとかも見えるし、昼寝するにも静かでいい。
あれ?
いる、人が1人、見覚えのない女の子だ。
あの上履きの色からすると1年生か。
委員でもないのにあそこを使っているとは、なかなかの生徒だ。
とりあえず閉館のお知らせをしなくては、ということで控えめに声をかける
ことにした。
「すいませーん、そろそろ閉館でーす。」
と、その女の子はぴくっとこちらを向いた。
机の上には紙が数枚あり、様子からするとまだ何かを書きかけて
いるようだった。それと国語辞典が2冊置かれている、国語のレポート
かなにかだろうか?
彼女は紙に視線を落とし少し表情を曇らせたようだった。
やはまだ書き上がっていないのだろう、手にしたシャープペンを
あせるように上下させている。
(、、、まあ、、、いいか、急ぐ用事があるわけでもないし)
そう思い
「あ、いいですよそれ書き終わってからで、ちょっと残ってる仕事やって
ますから終わったら声かけてください。」
と早口で言ってカウンターへと戻ろうとした。
が、彼女はそそくさと片付けをしつつ
「いえ、いいです、帰ります」と言い、荷物をまとめるとすいっと出口へと
向かって歩いて行った。
(そんなに急がなくてもよかったのに、、、)
急かしたようでちょっと悪い気がして、その後ろ姿にを僕は
「お疲れさま」
と、声をかけた。すると彼女はつっと立ち止まってゆっくり顔だけふりかえり、
会釈をして図書館を出て行った。
「お疲れさま」って変だったかな?仕事をしてたわけじゃないし、「さよなら」でよかったかな?
などと思いつつ何気なく彼女の座っていた席を見るときれいな夕焼けが差し込んでいた。運動部はまだまだ練習をしているようだ。
がんばるなぁと思いつつ窓に近づく、と辞書が1冊置かれているのに気づいた。
彼女が使っていたものだろう、急がせたから棚に戻すのを忘れたのかな?
ま、戻しておきましょう。と思って背表紙を見たところ違和感を覚えた。
これは、ここの辞書じゃない。なぜなら整理用のラベルが貼ってない。
彼女のものだろうか?もう1冊の方が図書館のもので、あせって間違えて鞄に入れてしまった
のだろうか?急かせて悪かったなぁと思いつつ、彼女が間違いに気づいて戻って来るのではと思い、15分ほど待ってみたが空振りに終わった。
明日朝一番にでも来るかもしれない、そうだとしたら明日は早めに来て待っていて
みよう。そう決めて忘れ物の棚にその辞書を置いて帰ることにした。