放課後の遺言状
2
開けて翌日。
朝のホームルームの始まる15分前に図書館を開けた。
担当の専任司書さんは時間ぎりぎりに来ることが多いので閉館と同様に開館時間も僕に任せられている。少し問題ありな体制ではとも思うがそれが幸いしてこのように自由な開け閉めができるのだから
「よし」としている。
さて、鍵を開けてしまえば取りたててする仕事もない。忘れ物のお知らせプレートを入り口から見えるように向きを変え、昨日の辞書をその横に置いて準備完了。あとはボーッとしながら彼女を待つとしよう。
しかし彼女が来るという確証もないのに待っている自分も少し気の回しすぎだなと思わないこともない。
まあ、誰に迷惑をかけるわけでもないし、彼女が閉まっている図書館の扉の固さに落胆する事態を防げる可能性が少しでもあるならそれでもいいか、と思いながら全開にしたガラスの扉の向こうを見つめていた。
たたたた、、、
下の階から階段を駆け上がる足音がする。
程なく一人の女の子が図書館のある4階に現れた。
ちらっと見ただけなので顔はよく覚えていないが、背格好からするとおそらく昨日の彼女だろう。後輩たちに「営業用スマイル」と言われる多少ぎこちない笑顔を作り、声をかける。
「おはようございます」
「え?あ、、おはようございます。あの、えっと、、、」
こんな時間に開いているか半信半疑だったのだろうか、少し意外そうな面持ちで挨拶を返してくれたのは昨日聞いた声の持ち主だった。言葉につまった彼女に僕が
「昨日、この辞書をお忘れになりませんでしたか?」とカウンターの上を指し示すと。
「あ、、、そうです、私のです。」
彼女はそう言って辞書を手に取り、かすかにほっとした表情を浮かべた。
「あの、、、」
彼女は続けた
「ありがとう、ごさいました」
小さくお辞儀をすると彼女はくるりと踵を返し、「たたた」と階段を降りて行った。
(よかったよかった)と、一人でうなずいていると
「先輩」と呼ぶ声が扉から聞こえてきた。
「あの子とお知り合いなんですか」
「おはよう、由紀ちゃん、今日は早いね」
声をかけてきたのは後輩で僕と同じく図書委員の松原由紀江ちゃんだった。
「おはようございます、ねぇそれでどうなんですか?」
「何が?」
「だから今の子と」
「いいや、昨日初めて見かけた、、、というかちょっと声をかけただけで、ちゃんと顔を見たのは今朝が始めてだよ。」
「ふーん、やっぱり」
何かを一人で納得したような由紀ちゃんに僕は逆に質問を返した。
「由紀ちゃんは知ってるの?」
「ええ、一応クラスメイトですから。彼女、涼風(すずかぜ)さんっていうんですけどおとなしくて全然目立たない子なんですよ。その彼女が先輩とお話してるなんてどうも繋がりが見えなくて、いろいろ想像しそうになったんですけど」
いろいろ想像?それってどういうこと、と言おうとしたときにホームルームの5分前のいわゆる「遅刻者への審判のチャイム」が鳴った。「あ!」と2人同時に叫び、僕は「放課後ちょっと聞きたいことがあるから」と言って自分の教室へと駆け出した。