放課後の遺言状


3

「先輩、さては惚れましたね。」
放課後、図書館で先に来ていた由紀ちゃんに声をかけるといきなりこんな反応だった。
「いや〜、ああいう子が好みだったんですねぇ〜、いえいえ皆まで言いなさるな、この不肖の後輩松原由紀江が知る彼女の全てを教えてさしあげましょう。」
は?という表情の僕にかまわず由紀ちゃんは喋りはじめた。彼女はこうなると止まらない。彼女の想像力は授業時間中にフル回転してしまったようだ。
「フルネームは『涼風 咲子(すずかぜ さきこ)』私と同じ15HR所属の16歳。 誕生日は8月28日乙女座のA型。
一言で言うと地味でおとなしい子。ホームルームでも発言した記憶がないです。 まあ悪い子じゃあないですけど、見たところ特に仲のいい友人なし。加えて彼氏の噂もなし。人づきあいがあんまり得意そうじゃないですね。休み時間も予習してるか本読んでるかだし、お弁当の時間もクラスを出て行って中庭かどこかで一人で食べてるみたい。
彼女の中学からここに来てる子少ないんでそれが原因かもしれないですね。あ、そうそう偶然先輩と同じ中学ですけどホントに知りません?私も仲がいいというわけじゃないんでキューピットとしてはお役に立ちませんが、伝言くらいなら仰せつかりますよ。あと、住所と電話番号もありますけどメモしますか。」
「ちょっと落ち着こう、由紀ちゃん。別に惚れたとかそういうわけじゃ、、、」
と、ささやかに防波堤を作って抵抗してみたが、、、
「またまたぁ、あ!昨日声かけたって言ってましたけど、それってやっぱり放課後ですか、それもここで?」
防波堤は無力だった。しかし放っておくわけにもゆかない。
「いや、それはそうだけど、でもね、、、」
「そこがちょっと重要かもしれませんよ。彼女、先月で部活やめて帰宅部になってるんですよ。ほら、文芸部ってあるでしょ、地味―な。3年生の先輩が引退してからほとんど活動らしい活動がないところなんですけど、2年生ゼロで1年生も彼女一人だったらしくて来年には廃部かもってところ。彼女、居場所がなくてここに来てたんじゃないかなって思うんですよ。そこで起きた運命の出会い!ロマンス!青春の1ページ!ああ、もう先輩も隅におけませんねぇ、憎い憎い!」
「由紀ちゃん」
「はい!電話番号はですね、」
「大きく深呼吸をしてみよう」
「?はい?はあ、、、。すーっ、はーっ。はい、しました」
「電話番号はいらない」
「あ、さてはもうチェック済み?意外と行動派なんですねー、きゃー」
「あのね、惚れてないから、そういうことじゃないから」
「もう、照れない照れない!自分の心に正直にならなくちゃ。恋は向こうから近づいては来ませんよ、自分から行かないと駄目なんですよぉ!」
もう何を言ってもムダかもしれない。しかたなくその場は「何かあったらよろしくね」とお茶を濁して当番の仕事を始めることにした。

しばらくすると由紀ちゃんが肘で脇腹をつついてきた、何かと思って振り向くと扉を控えめに指差している。
見ると涼風さんが図書館に入ってくるところだった。由紀ちゃんは何かをけしかけるような視線を僕に向けたが僕は業務を淡々とこなし続た。もちろん彼女もさっさと扉をぬけて奥へと向かう。「何で声かけないんですかぁ?」と言いたげな表情の後輩を意識的に無視しつつ返却本の整理を続ける僕だった。


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