放課後の遺言状

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遺書を残された人の気持ちはどんな気持ちだろう
それはどこへも行けない思い、受け止めてもらえず虚空にさまよう思いをそこに見るというつらい行き場のない気持ちではないだろうか。
どうして生きているうちに言ってくれなかったのだろう、と。
遺書を残すのは勝手かもしれないが、遺書を残された人の気持ちはどうなるのだろう。
そのことを彼女に知ってもらいたかった。

カウンター下には人が1人入れるぐらいの空間がある。こんなことは図書委員の中でもカウンターの住人と化している数人にしか知られていないことだ。一瞬でも気をそらすことができれば僕は中に隠れているだけだが涼風さんには見えないという状況が作り出せる。そしていくつかの効果を組み合わせれば、、、

と、思ったのだが思いのほか上手くいきすぎてしまった。
彼女があんなに動揺するとは、、、過剰すぎる演出に反省している。幽霊部員とはいえ映画研究会所属というところが裏目にでたかもしれない。

「遺言って、何だろうね」
僕は窓を閉め、カウンターの内側によりかかっている彼女が落ち着いたかと思える頃合いを見計らい、話しかけた。
「書くのがつらいのを耐えてまで書かなくちゃいけないものかな。遺言、読んで嬉しくなる人っているのかな、たとえば普通の手紙をもらうより嬉しいかな?」
「言わなくちゃいけない言葉より言いたい言葉を大事にしたいって思うんだ、言えないことばなんてなくて言えない自分がいるだけなんじゃないかな?だって、言いたい気持ちがあるんだから、言えた方が嬉しいよ、きっと。聞いてもらえたほうが嬉しいよ」
自分が少し興奮してきているのがわかる。こんなふうになるのは久しぶりだ。
床にしゃがみこんで視線の高さを合わせて続ける。
「松原さんから少し涼風さんのこと聞いてね、どこか似てるなって勝手にだけど思ったんだ。僕もクラスで浮いているなあって自分ですら思うことがあって、人づきあいもうまい方じゃない、遊ぶこともうまくない。だからクラス以外の学校内と家だけが居場所、でも家でもそんなに話なんてしないんだ」
「遺言、僕も書こうとしてみたんだけど書けなかったんだ。言いたくても誰にも言えないことを抱えていたら僕も遺書を書いていたかもしれない、人つながりを持つことが不安で。でも僕にはここがあった、涼風さんともこうして話せる、松原さんや他の委員会のメンバーとも、だから遺言を書かないんだと思う。不安や言いたいことを受けとめてもらえる場所があるから。涼風さんにもそういう場所が必要だと思う、そうしたら遺書を書かなくてもよくなるんじゃないかな?」
そして僕は彼女がここを嫌いにならないでいてくれたらと思い、
「委員でなくてもいいからさ、ここが他より少しでも落ち着く場所なら、ここを出発点にして探してみたらどうかな?松原さん、あの子どうだったかな、けっこう話しやすいと思うんだけど。あと、でしゃばりだとは思うけど僕も一応委員長だからさ、委員でなくてもここにいるときは何でも言ってくれていいよ、何でも聞いてくれていいよ。」
と、もう一度遠まわしに誘ってみた。

ぼうっとしていた(聞いていてくれた?)彼女の口からようやく
「何でも、、、?」
という言葉ばがこぼれた。僕は再び警戒されないようにやわらかく、ゆっくり言葉を続けた。
「そう、何でも。今はかなり一方的に話しちゃったけど、わりと聞き上手って評判なんだから。進路から人生まで幅広く受け付けております。まあ、年の功ってところだよ」
我ながらかなり不自然で不出来なセリフだなぁ、、、と思っていたが
「、、、じゃあ、、、」
と、彼女は反応してくれた。
「う、うん、何かな」
しどろもどろになりそうな自分をなんとか制御して聞いてみる。
「お名前」
「は、、、、?」
「お名前、聞かせてくれませんか?」
「え?、、、、、、あ!まだ言ってなかった?!」
「ええ、初めてお会いしたあの日からもう1ヶ月になりますけど」
「あ、、、ああそうか、、、」
「こんなにたくさんお話してくれるのにお名前はまだ一度も、」
くす、と彼女が笑った、彼女の笑顔を初めて見たのは多分このときだと思う。



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