放課後の遺言状

11

その後、過剰なお芝居をしたことを何遍もお詫びした。
多少あきれ気味だったけど涼風さんは許してくれた。
さすがにもう2度とはしないだろうけれど「もうしません」と約束してその日は帰ってゆく彼女を見送った。

数日後、彼女がカウンターに現れた。図書委員のバッジが制服に輝いている。 そして明るい声でこう言った。
「渡部(わたべ)先輩!」
「はい」
「私、もう遺書は書きません。」
「うん」
「いっぱい、いっぱい話しをして。 いっしょの時間をすごして、ちょっと大袈裟ですけどその人の心に私を刻みつけようと思うんです。 だから、なるべく思いを、ことばを言い残さないようにしたいんです。そのときの思いをそのときに伝えたいんです。 想いって、生きてないと意味がないことも、、、いいえそうじゃないですね、生きていることでより意味を持てるってこともあると思うんです。」
何かいいことがあったの、と聞いたところ。
「あ、ええと、昨日ですね中学のときの友達から電話があったんです、すごく久しぶりに。家もちょっと遠くて高校も別になってしまったんでずーっと話してなかったんですけど、このあいだ先輩がお話してくれたこととか、遺書のことも初めて話したんですけど、すごくわかるって言ってくれて、、、それでその子に私『図書委員をやってみようかなって思うんだ』って相談してたんです。そしたらがんばって、応援してるよって言ってくれたんです。私がそんなことを言うのは初めてだって驚いていましたけど、そんなふうに思えることがみつかってよかったねって。それで思ったんです、 たとえば、たとえばですよ、あの、誰かを『好き』って想いをあの、そんな深い意味じゃなくても、『伝える』ってこと、生きているときの方が嬉しいと思うんです。言う方も、言われる方も。だまっているより、ずっと。」
「その友達のこと、好きなんだね」
「ええ、私は昨日初めて言ったんですけど、、、」
恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに彼女は言った。
「あんなにいっぱい、楽しく話したの、久しぶりです、、、ずっとこんなことありませんでした。いつも緊張して、「話さなくちゃいけない」って思っただけで憂鬱でしたけど、話すことって、、、いいですね。話したいことを話すのってこんなに簡単だったんですね。」
それを聞いていた僕がよかったなあという気の抜けた笑い顔をしていたのを見たのか、彼女が
「あ、、、あの私、変ですか、、、変なこと言ってますか」
と、一瞬不安げな表情を浮かべたので、僕はすぐさま
「全然、いいと思うよ、聞いてる僕の方も元気になったみたいだ」
と答えた。
「よかった。あ、でも先輩のやった自殺のお芝居の話、やりすぎだからもう少し怒っておいたほうがいいよってその子は言ってましたけど」
彼女の顔がほころんだ。僕は再び少し反省しつつも、今度の笑顔はこの前よりいっそう活き活きとしていてすてきだなと感じていた。
ポン。
誰かが僕の肩に手を置いた。
振り返ると由紀ちゃんが
「それでは先輩、いざ第1回目の後期図書委員会に参りましょうか。」
と、いつかの暴走したときの瞳の輝きで僕を注視していた。
「そうだね、行こうか」と、何か言いたくて仕方がない様子の由紀ちゃんの視線を流す。
涼風さんも「はい」と答えて3人で図書館を出る。

会議室となっている教室へ向う途中、由紀ちゃんが一枚の紙を渡してくれた。
「先輩、今日の会議の座席表作ってきましたぁ」
「ああ、ありがとう」
受け取ってざっと見る、、、!
何だこれは?普通は学年別、クラス順に並ぶもののはずなのに僕の隣に突然15HRの2人が来ていて、3人がけの席に渡部・涼風・松原となっている。そして僕と涼風さんの間にはワープロ打ちのプリントらしからぬ色と形のマークがあった。僕は涼風さんに気づかれないよう極めて小声で尋ねた。
「由紀ちゃん、、、これは何かな、、、」
「はい、私が涼風さんの右を固めて彼女の意識を先輩に集中させますので、先輩はこのピンクのハートマークをぐんぐんぐんぐん大―きくしていってください!つかみとしては趣味の話がいいと思います。」
「あのね、、、」
「一度は失敗しましたが今度こそ先輩の恋のキューピッド役を果たしてご覧にいれます。ご期待ください!」
自信に満ち溢れ、メラメラと燃えてさえいるような由紀ちゃんの目に僕は軽いめまいを憶えた。
ふらっ
と、思わず実際にバランスを崩しかけた僕を涼風さんが慌てて支えてくれた。
「大丈夫ですか!?」
驚いている涼風さんからぱっと離れて
「う、うん大丈夫だから」
と答えたそのとき
(くふふっ、、、)
そんな由紀ちゃんの心の声が聞こえたような気がした。



終



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