放課後の遺言状

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僕の通う高校は前後期制で後期の始まるのが10月になっている。
あと2週間ほどのことだ。
それに合わせて各委員の任期も切れるので改めて各クラスで委員の選出が行われる。
「そこで君の任務だが涼風さんをスカウトしてきてもらいたい」
と某映画の命令口調を真似て由紀ちゃんにお願いをしてみた。
今は昼休み。委員会の集まりと称して僕と由紀ちゃんは司書室でランチの最中だ。
「涼風さんを、ですか?なんでまた、、、あ〜!わかりましたよ!」
「何が?」
「ふっふっふ、、、やりますねぇ、彼女と一緒にいる時間を作るために彼女をここに引き込もうというんですね。仕事とはいえ共にすごす時間は二人の距離を縮める絶好のとき、二人きりになるときを見計らってこ・く・は・く!という作戦ですね!恋のためなら公私混同もやむなし!そこまで彼女を想っているとは、、、いい、いいですね!恋って!」またか、、、と思いつつも誰にも言わないという涼風さんとの約束があるので細かい事情を説明するわけにもいかず、
「、、、とにかくお願いするよ」と特に否定もせずに話を収めようとしたのだが、
「わかりました!まことに微力ながらこの松原由紀江、先輩の恋心をふまえつつ彼女の警戒心を刺激せずに委員会に引き込んでみせましょう。」とお弁当を乗せた机の上に飛び乗らんばかりのガッツポーズを見せてくれた。彼女は遠い将来かなりパワフルな「仲人おばさん」になるのではと思った僕だった。
「あ、でもあんまり話したことないからまずはお話することからはじめなくっちゃですね。早速彼女のお昼の指定席を捜索してきます。それで明日お弁当一緒していいかって聞いてみまーす!ではっ!」
と素早く自分のランチタイムを切り上げて図書館を出て行った。
彼女にまかせておけばうまくいくかもしれない、何の根拠もないのにそんな期待を持たせてくれる後輩を持てたことは幸せだと思った。

そのあと、新刊図書の整理中に偶然臓器移植関連の書籍をみつけた。遺書のこともあって読み出したところ、法律の条文をみつけることができた。独特の言い回しにある種の新鮮さすら覚えつつ読み進む。

「臓器の移植に関する法律」
第6条
医師は、死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないときは、この法律に基づき、移植術に使用するための臓器を死体(脳死した者の体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。

「?」
この条文を読んだとき、僕は記憶のどこかにひっかかるものを感じた。
それを分析した結果導き出されたのは、僕が思いついた今回の提案により意味をもつものにさせる仮説だった。


数日後。
由紀江ちゃんから「涼風さんとお昼をいっしょに食べました」との報告を受けた日の放課後、僕は彼女にごく自然にと心がけ、話しかけた。突然の問いかけに対し、彼女は僕が思っていた以上に堅い雰囲気で反応した。
「、、、何かご用ですか?」
僕はあまり意味深でない問いかけだという感じを出そうとしつつ言葉を続けた。
「あのさ、、、ドナーカード、持ってるっていってたよね」
「はい」
「それでさ、思ったんだけど、、、臓器移植のこと、ご両親と話したこと、ないんじゃない?」
彼女は少し警戒するような間を置いて小さな声で
「どうして、、、そう思うんですか」
と尋ねてきた。僕は予め用意していた仮説を示した
「ちょっとね、法律を調べたんだ、そうしたらご両親と同意ができていれば、遺言で言う必要はないんじゃないかな、と思って、法律でそう決められているのは、、、知ってるよね?」
彼女は無言だ。肯定ととっていいだろう。
「だからなんだけど、、、」
「、、、、そうです、、、話していません、、、」
絞り出すような反応に少しドキッとしたがまだ話をやめるときではない、
「どうしてかな?法律的にいうと話しておいた方がいいんじゃないかって思うんだけど、、、」
と、言いかけたとき、突然彼女が叫んだ
「そんなこと話せないじゃないですか!」
さほど大きな声ではない、大きな声であったところで今図書館には僕と涼風さんの2人しかいないから問題はないのだが彼女とすれば人前で叫ぶということはめったにないのだろうか、叫んだことに動揺し、少し興奮している様子だった。

「だって、、、だって、、、遺言を書いてるなんて親に言えると思いますか!?
そんなこと知ったら、、、きっとあなたみたいに取り乱して、よけいな心配をさせてしまう、、、
ドナーカードのことだって、私だってそれがいいことなのかどうなのか、、、わからないんですから、、、
ちょっと、そんなことを知ったから、、、そうですよ!背伸びして書きたかっただけです!
みんなが知らない、新しいこと書くと、かっこいいこと書くと、少し気が紛れたから、、、だから、、、、」
涙の混じりそうな声で涼風さんは言う。
「だって、遺言状、、、書くのってつらいんですよ!すごく気持ちが重くなるんですよ!
感謝しなくちゃいけない人、お別れしなくちゃいけない人、、、ちゃんと伝わるかとか、失礼じゃないかとか考えて何回も書き直して、、、。でも、そうしないと、不安で、、、もう書くのをやめられないんです、、、ちゃんとしておかないと、もし死んじゃったら、、、死んじゃったら、、、。」
彼女はここまでを一気に言い、息を切らせてうつむいてしまった。
僕は驚きと彼女の心に踏み込んでしまったいたたまれなさで体が痺れたように動かなかった。
その後、少し落ち着いたのか彼女が顔を上げた。
その顔を直視できず、カウンターのカレンダーに目を泳がせている僕に
「心配してくれなくていいです、、、こんなことで死のうなんて思いませんから」
そう言って彼女は図書館を出ていってしまった。

「死なないこと」イコール「生きていること」じゃない。呆然としつつも彼女の言葉を反芻し、僕はそう思った。
新たに何も背負いたくないから、もう何も得ることを望まず、長い残りの日々を埋めるために
彼女は遺言を書いているのかもしれない。
それって、いつまでもつらいことだけが続いていくってこと、、、つらすぎるよ、、、。

失敗だ。
でも、まだ打つ手はある。
彼女のこころに踏み込んでおいてこのまま放っておくことはできない。
そんな決意から完全に一人になった図書館で僕は過剰とも思える最後の手段を練り上げた。



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