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「おい、また出たんだってよ」
「またって…、じゃあやっぱり昨日の夜のは…」
「ああ、例のトラの化け物だって話だ」
「そうか…」
西には深い森
北にはそれほど高くはない山々
東と南には平原の広がる
標準より少し大きめの規模の町クライシスタウン。
この町には、ある魔物の噂があった。
「山の魔物」
いや、魔物が特別に珍しいわけではないが、そいつは少し格の違う存在として認識されている特別な魔物だった。
「ありゃあ、トラみたいななりをしているがケモノじゃねえ、間違いなく魔物だ」
過去に狩人たちが大挙して山狩りをしたこともあったそうだが成果は上がっていない。
「いつも1匹なんだが、おっそろしく素早くて、銃のねらいもつけられねえ」
大勢の人の前には姿を現さず、根城もようとして知れない。
「まるで、こっちの話してることもわかってるみたいでな」
「ああ、『罠の所までおびきよせろ!』なんて叫んだとたん踵を返したりして、、、」
多くは山で放牧される家畜が狙われるのだが
「しかも頭にくることに、腰を抜かしちまった俺をあざ笑うかのように振り返って、それまで食っていた牛のツノをつかんで悠々と2本足で立って歩いていきやがったんだ」
「、、、お前、化かされてるんじゃねえか?」
闇夜の晩には人が襲われることもある。
「…いつか、父さんのかたきをうつんだ」
墓標から顔を上げた少年の目の先にその魔物のいる山があった。
その山の奥深く、延々と続くと感じられるうっそうとした森を進むうちにわずかに木々の間隔が開けてくる場所がある。今まで遮断されていた日差しが平地の木立ちの中くらいに回復し、多少人心地がする空間。
その北方のつきあたりの岩肌にぽっかりと開いた穴がある。
噂の主はそこにいた。
「ふわぁぁ…暇だぜ…」
山の奥深くにある根城でその魔物は不機嫌なひとりごとをつぶやいていた。
意味もなく部屋の中をぐるぐる回ったり、立ち止まったりしつつ、腕を組んだり顎に手をあててみたり、そしてまた何かをつぶやいて
「……!」
と、何かを思い出したように両の手を頭頂部に持っていった。
次いで側面
後頭部
あご(髭?)
「うむ…、よし。」
…毛繕いをしたようだ。
そしてまた
「ふわぁぁ…暇だぜ…」とつぶやく。
魔物と呼ばれているからといって年がら年中
「ぐるるる、ぐわおー」とか「さぁて、今日は何人襲ってやろうか、、、」とか
暗い洞窟の中で赤い目を光らせて唸っているわけではないらしい。
それに根城といっても簡素ながらも炊事場があるし、食器棚もあるしテーブルもある。
一見すれば普通の人間の住まいと変わらない。
トイレとされる場所に異常な数の骨が転がっていることを除けば。
彼は人間の狩猟者のように自分の食料を捕り、それを食べ、空腹になれば次の狩りに出るという生活をしているのだが、銃や弓の手入れをする必要もなく、余った獲物を売りに里に下りる必要もないため、暇をもてあますことが多いようだ。解決のあてもないひとりごとをつぶやくのにもいいかげん飽きてきているようだったが、
「よう、ツトム、遊びに来たぞ〜」
と、都合よく来客があった、、、ようだが、姿が見えない。