12.
「………えっ?」
俺たちは同時にそう声をあげた
その次の瞬間
「うわああっ!!!!」
"俺"は背後の大きな木の幹に打ち付けられた。
「つ、つ、ツトムさんっ!?」
「ようし、一発当てたぞ!!」
……人間の声がする
「次は俺だ!親父のカタキ、くらえ!!」
<ダ―――――ン!!!!>
再び体に衝撃が走り、血が吹き出した。
脇腹と肩口に鋭い痛み。
……撃たれたか
「ツトムさん!!!???」
ガキの動転した声が聞こえる。
だが俺の思考を占めていたのは
(何でここが…?)
ということだった。
今まで1人として人間なんか近づいたことのないこの場所が…
(!!!)
ハッとあることが思い出された
(そんで俺らを安心させたところで殺るつもりなんだぜ??)
(……何言ってんだ、んなわけ…ねーだろーが)
(へっ、どーだかな?)
(お前、何でそんなに疑うんだ?おかしーぞ??)
(……おかしい、だぁ!?俺に負わせりゃ簡単に信じちまうお前の方がおかしいんだよ!!)
(……もしかしたら…)
前足を染めた血しぶきを見つめ
(ベル公…お前の方が……正しかった、かもな……)
そんなことを思ったら、急に感覚がぼんやりしてきた。
撃たれたとはいえ、ほんの2発だ。
心臓や頭を直撃されたわけじゃない。
けれどなぜか吹き出す血の何倍もの勢いで、体の力がどんどんこぼれ出て行くような気がした。
「とどめだ!!!」
また人間の声がする。
だが、両足で立ち上がるどころか首をそちらに向ける力さえ湧いてこない。
(あ……やべぇかも……)
かわすことも、耐えることも…この俺とあろうものが、できそうにない…
(死ぬのかぁ、俺……)
その時
観念しかけた俺の耳に声が聞こえた。
俺のすぐ側
弾のとんできた方向を遮るような場所から
「……大丈夫ですよ……」
と
(……!!!)
俺ははっとして閉じかけていた目を開いた
ガキが笑っている、いや微笑んでいるというほうがあっているのか
何か、とても穏やかで
何の力もないくせに何故かとても力にあふれているような、そんな笑顔だった。
「ばっ、ばか……」
と、俺は叫ぼうとした、が、
<ダ――――――――――ン!!!!!!!>
「……!!!!」
ガキの体が一瞬跳ね、ゆっくりと右回りに回転して倒れていった。
赤い血が服に飛び散っている。
口からも血が流れ出す。
「ばっ、バカ野郎!!」
俺は地面とガキの間に滑り込むように駆け寄り、倒れてくるその体を支えた。
しかし
「あ…あぁ……」
ガキは力なくよろけ、俺の腕に体を預けるようにがくりとその身を折った。
「バ、バカ!何やってんだ」
「や、やべぇよ!!逃げるぞ!!」
「ひ、ひえぇ〜!!」
人間は逃げていった……
「お、お……い……」
涙が、流れ出していた。
俺の両目から止めようもなく流れていた。
俺の呼びかけに、ガキはまた無理な笑みを浮かべ血を吐きながらしゃべった。
「だ……い…じょうぶ……ですか?」
「バカ野郎!!お前、何で……?」
涙はますますその勢いを増す。
「……わかり、ま…せん………」
「ば……バカ野郎………」
「わから…ないけど………」
ガキが少し口を閉じた。
無理な笑みが消え、その分わずかに落ち着いたような表情になり、また続けた
「考える前に…体が……動いて…まし、た……」
あ……あぁ……ああああぁぁぁぁぁあ!!!!
俺は……
俺は何を考えてるんだ!!!
コイツは、あ…アカネは,いつも俺のそばにいたじゃねぇか!!
誰かにこの場所を言えるわけねぇじゃねぇか!!
俺のことなんか…俺みたいなバカのことなんか……ほっといて逃げればよかったんだ!!
そんで、俺のことなんか忘れて…
「目だって治るかもしれねぇじゃねぇか!!!」
止まらない涙と自分への怒りで俺は声の限り叫んでいた。
だが、涙の重みに耐えかねるように俺の体も次第に力なく前かがみになってゆく
「そしたら、もっと、もっと……し、幸せ…に……」
「……………」
アカネは応えない。
「ばか…やろう……」
眠っているかのように。
「何か……何かしゃべって…くれ…よ……」
しばらく(俺にはひどく長く感じられたが)祈るような気持ちで見つめているとアカネの瞳がわずかに開いた。
そして口を開いて
「し………し、あわ……せ……」
と、言って笑顔をつくった。
「…………」
「……でしたよ……孤児院、で、いるより、ずっと……」
「死んだら、死んだら何にもなんねぇだろ…うが……」
また俺の涙が勢いを増す。
「わすれ…ないです…から」
「ば、ばかやろ…う……」
「……あ…も、う……」
アカネの声が消え入るように小さくなり、その目も閉じられた。
「おいっ、おいっ!!」
「…………」
「し、死ぬんじゃね…え……」
涙が口の中にまであふれているかのように、俺の喉に冷たい感覚が走る。
「今日も、今日も……き、キノコ採りに行くんだろ……?」
「………」
「鹿だって、熊だって何だって狩ってやるから!!!」
「………」
「ば……か、やろう……が…ああああ!!!」
叫びと震えが俺を揺らすが、アカネは反応しない……
「俺は…俺は……!!!」
……俺は……とりかえしのつかない時が訪れる恐怖を感じつつも
「お……おおばかやろ…うだ……」
ただ、泣き崩れるのに体をまかせてしまっていた…