16.
ツトムは歩いてゆく
その花弁の数を数えることすらかなわないくらいの一面の花畑を
色とりどりの花に囲まれた、アカネが食事をするとき座った椅子がわりの石を置いたアカネの墓標
その前にしゃがみ
静かに語りかける
今日も…良い天気だぞ
おまえの好きな…風も気持ちいいぞ……
きっと、こんな日を晴天って言うんだろうな
晴天……
そうだな、これはお前に教わった言葉だったな
見えない目で見て……見えないのに、教えてくれたんだな
この空の清々しさを
お前が来るまで意味も無く空を見上げたことなんてなかったけど……いいもんだな
今日も、お前の好きな木の実、持ってきたぞ
いっぱい、食えよ…
………
明日はキノコを採って来てやるからな
………
今日こそは……言えるよ
…………
………
……
…ありが…とう…
…ははは…
ダメだ……涙が…
また…涙が…止まらない…
こんなときに笑えなんて…無理言うなよ…
どうしたら…いいんだよ……、
(…ツトムさん…)
!??
思わす振り返り、辺りを見回す。
「…あ…か…ね…?」
森に、空に、風に問いかけるツトム。
その体から(すっ)と何か重いものが落ちたかのようにふわりと体中の毛がなびいた。
膝立ちのまま、何を見つめるのでもなく、焦点の合わない目をしたままツトムは動かない。
…………そうか……、そうだな
おまえは、どこかに消えてしまってなんていないんだ…
大好きなこの青空の下、風の中でずっと変らず、笑っているんだな……
ずっと…ここにいるんだな……
……俺も…ずっと、ここに…いるよ……
何も、変らずに………
俺は首を垂直に向け、空を見上げた
青空から陽の光が差し
森を抜ける風が吹き、花が揺れる。
目を閉じても、それが消えることはない。
いつまでも、いつまでも。
ずっと一緒で、何も変ってゆきはしないんだ。
「……いい風だな、……なあ、アカネ」
夢は、もう見ない。
<終>